「職権変更登記」制度の創設
今回は、「職権変更登記」制度について触れたいと思います。
自然人・法人に住所等(※1)の変更があった場合が対象となります。
(住所変更登記等(※2)の申請義務化に伴い、導入される制度です。)
法務局(登記官)が他の公的機関から取得した情報に基づき、職権的に住所等の変更登記をするシステムです。
※1「住所等」とは
①自然人の住所・氏名
②法人の住所(本店)・名称(商号)
※2「住所変更登記等」とは
①自然人の住所・氏名の変更登記
②法人の住所(本点)・名称(商号)の変更登記
「職権変更登記」制度の導入により、申請義務の負担が軽減されます。
「職権変更登記」制度の概要・手続きの流れ
同制度は、自然人のケースと法人のケースとで、異なる仕組みになってます。
ここからは、「職権変更登記」制度の概要と手続きの流れについて触れます。
職権変更登記制度の概要(自然人のケース)
まずは、自然人の住所等の変更が対象となる職権変更登記について触れます。
自然人のケースは、個人のプライバシーの尊重の観点から、配慮がされています。
(本人による「申出」があるときに限定されます。)
自然人の職権変更登記の概要は、以下のとおりです。
- 登記名義人から、あらかじめ、氏名・住所・生年月日等の「検索用情報」の提供を受けておく
- 法務局側で定期的に住基ネットに照会をして、住所等の変更の有無を確認する
(検索用情報等を「検索キー」とする) - 住所等の変更があれば、法務局側から登記名義人に対し、住所等の変更登記をすることについて確認を行う
- 登記名義人から了解(「申出」として取り扱う)を得たときに、法務局(登記官)が職権的に変更登記をする
職権変更登記制度の概要(法人のケース)
次に、法人の住所等の変更が対象となる職権変更登記について触れます。
法人のケースでは、「申出」の有無に関係なく職権変更登記の対象となります。
法人の職権変更登記の概要は、以下のとおりです。
- 法務省・法務局の内部において、システム間の連携がされる
(商業・法人登記のシステムと不動産登記のシステムの連携) - システム間の連携・通知等により、法人の住所等の変更があったことを把握する
※改正法では、所有権登記名義人が法人であるときは、法人の会社法人等番号を登記事項とされる予定 - 法務省内のシステムによって取得した情報に基づき、法務局(登記官)が職権的に変更登記をする
職権変更登記の手続きの流れ(自然人のケース)
自然人の住所等の職権変更登記の手続きの流れは、以下のとおりです。
- 検索用情報(氏名・フリガナ・住所・生年月日・性別等)を事前に提供
- 検索用情報をシステム内部に入力
※検索用情報のうち登記簿に表示されるのは「氏名」・「住所」のみ - 検索用情報を用いて定期的に照会
- 住基ネットから法務局側のシステムへ住所・氏名等の変更情報が提供される
- 職権で変更登記をすることにつき、法務局から登記名義人に意思確認がされる
- 登記名義人が了承する(「申出」がされたものとして取り扱う)
- 職権による変更登記がされる
⇒法務局による職権変更登記により、登記申請義務は履行済みとなる
職権変更登記の手続きの流れ(法人のケース)
法人の住所等の職権変更登記の手続きの流れは、以下のとおりです。
- 商業・法人登記システムから不動産登記システムへ法人の住所等の変更情報が提供される
※法務局内部のシステム連携によるため、自然人のケースのように定期的な照会は想定されていない - 職権による変更登記がされる
⇒法務局による職権変更登記により、登記申請義務は履行済みとなる
会社法人等番号を登記事項とする改正(法人のケース)
改正法では、法人の所有権登記名義人の「会社法人等番号」が登記事項となります。
- 新たに所有権の登記名義人となる場合、登記申請時に会社法人等番号をも登記事項として申請する
- 法務局側で会社法人等番号を登記する
【改正法の施行前に既に所有権の登記名義人となっている法人のケース】
登記官が職権で会社法人等番号を登記することが予定されています。
具体的には、法人から申出をしてもらい、登記官が職権で登記する流れが想定されます。
職権変更登記におけるプライバシー等への配慮(自然人のケース)
個人の最新(現在)の住所が登記簿に表示されることに支障がある方もいらっしゃいます。
(具体的には、DV・ストーカー・児童虐待の被害者等があたります。)
そこで、個人情報・プライバシー保護の観点から、自然人のケースでは、一定の配慮がされています。
具体的には、まず、住所等の変更登記を行うことについて、法務局から本人へ確認を行います。
そして、本人から了解を得た時に、はじめて法務局(登記官)が職権的に変更登記をすることになります。
最後に(注意点等)
自然人の場合には、本人のあずかり知らないところで、職権変更登記がされることはない仕組みになっています。
職権変更登記がされれば、自ら登記手続きを行う手間が省けるので、本人の負担が減ります。
一方で、職権変更登記がされるのは、あくまで法務局が住所変更等の事実を把握した場合にすぎません。
法務局のシステムの都合や何らかの事情により、法務局に住所変更等の事実が判明しないことも考えられます。
※法務局が住所等の変更の事実を把握していても、本人の「申出」がないケースでは、職権変更登記がされることはありません。
住所変更等の登記申請義務は、住所変更等の日から2年以内です。
職権変更登記の制度がある故に、手続きを放置したり、手続きを後回しにして、過料の対象になってしまうようなことがないように注意しましょう。
※次回記事:外国に居住する所有権の登記名義人の国内連絡先の登記について