会社設立登記の払込みを証する書面と預貯金通帳の記載について

投稿日: 2022-08-26

会社設立時の出資金の払込みについて

株式会社を設立するにあたっては、発起人から金銭の払込みが必要になります。
払い込まれた金銭は、設立後の会社の資本金(事業資金等)となります。
また、各発起人は、払い込んだ金額に対応する数の株式を割り当てられ、株主となります。
本記事では、会社設立に時の払込手続きの流れ払込みに関する必要書類について触れます。
なお、現物出資については、本記事では説明を割愛します。
(現物出資とは、発起人が、金銭ではなく、現物の財産を出資することをいいます。)

払込先の口座の名義について

出資金の払込先となる口座の名義は、発起人代表個人のものとすることが一般的です。
(発起人が複数名いれば、任意にその中の1名を発起人代表とします。)
※その他、払込先の口座の名義の詳細については、別の記事で書きたいと思います。

払込取扱機関(金融機関)について

まず、預貯金の通帳は、払込取扱機関が作成したものに限られます(会社法第32条第2項)。
そのため、以下に挙げられるような一定の金融機関でなければなりません。

  • 銀行
  • 信用金庫
  • 信用組合
  • 信託会社
  • 商工組合中央金庫
  • 農業協同組合
  • 日本国内の銀行の海外支店(平成28年・12・20民商第179号通達)
  • 外国銀行(内閣総理大臣の免許を受けた銀行)の日本支店(銀行法第47条)

なお、外国銀行の外国支店は払込取扱機関とは取り扱われないため、注意しましょう。

払込みを証する書面について

ここからは、実務上大多数を占める発起設立のケースを前提に触れます。


※発起設立:株式会社の設立時に発行される株式の全部を発起人が引き受ける方法
※募集設立:株式会社の設立時に発行される株式の一部を発起人のほか、発起人以外の第三者にも引き受けさせる方法


株式会社の設立登記を申請した後に、法務局において書面審査がなされます。
書面審査では、資本金となる出資金の額払込みの事実もチェックされます。
そのために提出を求められるのが、「払込みを証する書面」です。
具体的には、以下のような書面が払込みを証する書面となります。

  1. 払込取扱機関の作成した払込金受入証明書
  2. 設立時代表取締役又は設立時代表執行役の作成に係る払込取扱機関に払い込まれた金額を証明する書面に、次の書面のいずれかを合綴したもの
  • 払込取扱機関における口座に関する預貯金通帳の写し(表表紙・裏表紙部分、見開き部分、入金記録部分)
  • 取引明細表その他の払込取扱機関が作成した書面

実務上は、通帳の写しを合綴した代表者の証明書(上記2)によるのが一般的です。
この場合、証明書の作成名義人は、設立時代表取締役又は設立時代表執行役になります。
なお、発起人が作成名義人となっている証明書では登記は受理されません。

預貯金の通帳の記載内容について

先に述べた払込みを証する書面に綴じる通帳(写し)について触れます。

現実に払込みが必要

通帳上は、摘要欄に「振込」・「入金」という記載がされる等、口座に金員が払い込まれたことを確認できることが必要です。
また、発起人が口座に一定の残高を有しているだけでは足りない点に注意が必要です。
(振込・入金等により出資がされたことが外観上明らかになっている必要があります。)

発起人が1名のケース

また、発起人が1名のケースであっても、その発起人からの入金が必要となります。
いったん口座から出資金を引き出して入金するか、他の自分名義の口座から入金をすることになります。
(少し面倒ですが、法務局の書面審査の都合上、そのようなルールとなっています。)

振込人の氏名の表示の要否

入金記録部分に振込人の氏名が表示されていることまでは求められません
定款に記載されている出資金以上の金額が入金されていれば、登記は受理されます。
ただし、発起人が複数名のケースでは、発起人の氏名を表示して入金することを推奨します
(出資金であることを明確で、発起人単位で入金を把握できるのが望ましいです。)

払込みの時期

従来の実務上は、発起設立のケースでは、定款の作成日・発起人全員の同意日以後に入金する取扱いでした。
しかし、法務省の通達(令和4年6月13日付法務省民商第286号)により、発起設立のケースにおける払込時期の見直しがされました。
同通達では、定款の作成日・発起人全員の同意日よりも前に払込みがあっても、発起人又は設立時取締役の口座に払い込まれている等、当該設立に際して出資されたものと認められるものであれば差し支えないものとされました。
上記の通達により、設立時の手続きがより柔軟に進めることが可能となりました。

出資金の使用の可否

発起人等の口座へ支払われた金銭を設立費用(事務所の賃料等)の支払いのために使うことも可能です。

募集設立の場合の払込みを証する書面とは

ここまでは、発起設立のケースを前提に説明をしました。
募集設立の場合には、払込取扱機関が発行した払込金保管証明書が必要となります。
払込金保管証明書の作成名義が代表者(頭取等)であることまで求められません。
(本店営業部長・支店長等の権限があると思われる者の作成名義であれば足ります。)

終わりに

株式会社の設立登記では、法務局へ払込みを証する書面の提出が必要となります。
会社設立の際には、発起人口座の用意入金の段取りも忘れないようにしましょう。
もし、書面に不備があれば、審査が止まってしまい、設立手続きが遅れてしまいます。
振込・入金からやり直しになってしまうこともありますので、気をつけましょう。