法務局における遺言書の保管制度について

投稿日: 2022-07-07

はじめに(保管の対象となる遺言書とは)

今回は、法務局における遺言書の保管制度についてご説明します。
本制度は、令和2年(2020年)7月10日(金)から施行されました。
保管の対象となるのは、封のされていない自筆証書遺言になります。


※自筆証書遺言とは?
遺言者本人が財産目録以外の部分の全文を自書して作成する遺言の方式をいいます。
公証人や証人の関与は不要なため、いつどこでも遺言書の作成が可能です。


法務局における遺言書の保管制度を用いるメリット

次に、本制度を利用するメリットとしては、以下のようなことがあげられます。

法務局において外形的な確認が行われる

遺言書の保管申請時に、法務局において遺言書の外形的な確認が行われます。
そのため、形式上の不備により遺言が無効になるリスクが軽減されます。
これにより、従来の自筆証書遺言の欠点を補完する役割が期待できます。

家庭裁判所での遺言書の検認手続きが不要となる

本制度に基づき保管される遺言書については、家庭裁判所での検認手続きは不要です。
(検認制度は、検認時点の遺言書の状態を確認し、その証拠を保全する目的があります。)
一方で、本制度に基づき保管される遺言書は、法務局で厳重に管理されます。
偽造・変造がされるおそれが極めて低いため、検認も不要とされています。

従来の自筆証書遺言より証明力が担保されやすい

後述するとおり、保管申請時には法務局において遺言者の本人確認がされます。
そのため、遺言書の偽造・変造がされるおそれが極めて低いものとなります。
遺言書の信用力・証拠力が担保されれば、遺言書の効力が否定されるリスクを軽減できます。

管轄となる遺言書保管所(法務局)について

遺言書の保管の申請は、遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所(法務大臣の指定する法務局)の遺言書保管官(法務局の事務官)に対して行う必要があります。

ただし、遺言者が過去に作成した他の遺言書が現に遺言書保管所に保管されている場合には、遺言書の保管の申請は、当該他の遺言書が保管されている遺言書保管所の遺言書保管官に対して行う必要があります。

遺言書の保管の申請・遺言者本人の出頭について

申請にあたって、封をする前の遺言書の原文を遺言書保管所(法務局)へ提出します。
また、保管申請時には、必ず遺言書を作成した本人が出頭する必要があります
本人の出頭が求められるのは、以下のような目的を達成するためです。

  • 遺言書の偽造・変造がされることや本人の意思に反した遺言を防止する
  • 本人の意思に反して遺言書の保管がされることを防止する
  • 相続をめぐる紛争を予防する

遺言書保管官が行う外形的な確認について

保管申請がされると、遺言書保管官(法務局の事務官)が確認作業を行います。
(遺言書が法律で定める方式に適合しているかどうかの確認を行います。)
具体的には、日付・遺言者の氏名の記載、押印の有無、本文部分が自書したものかどうか等外形的な確認が行われます。

また、申請者が遺言者本人であることの確認も行われます。
具体的には、遺言書保管官が、本人確認書類の提示若しくは提出又は本人を特定するために必要な事項についての説明を求めることが予定されています。

遺言書保管所(法務局)への出頭が難しい場合はどうすればよい?

身体的な理由等によって法務局への出頭が難しい方もいらっしゃることかと思います。
そのような方の場合には、本制度を用いることは難しいところがあります。

ただ、従来のように自筆証書遺言を作成すること自体は可能です。
もし、作成方法や形式面等に不安があれば、司法書士等の専門家のサポートのもとで、遺言書を作成することも不可能ではありません。

また、公正証書遺言を作成する場合には、公証人が自宅や入院場所等まで出張してくれることもあります

本制度は、あくまで遺言をするための一つの手段に過ぎません。
当事者の実情にあわせて、どの遺言書を利用するのか決めていきましょう。

保管申請後の処理等について

遺言書原本の保管・遺言書保管ファイルの調製

保管申請が完了すると、遺言書保管所(法務局)において遺言書の原本が保管されます。
加えて、遺言書の画像情報等が遺言書保管ファイルに記録され、遺言書に関する情報の管理が行われることになります。

遺言書保管所に保管されている遺言書の返還(保管の撤回)について

関係当事者を取り巻く環境や事情の変化等により、遺言書を書き直したいようなケースも考えられます。
そのような場合には、遺言書の保管申請の撤回が認められています。
なお、遺言書の保管の申請の撤回の手続についても、遺言者本人が遺言書保管所に出頭して行う必要があります
(保管の申請と同様、代理人による方法は認められません。)

出頭した遺言者の本人確認後、遺言書の原本を返還するとともに、遺言書保管所に記録されている遺言書に関する情報が消去されます。

遺言書保管事実証明書の交付請求について

後日、法務局に保管されている遺言書の有無を調べたいケースも出てきます。
そのような場合には、遺言書保管事実証明書の交付請求を行うことが可能です。
ただし、遺言者が死亡しているかどうかによって、請求権者が異なります。

(遺言書保管事実証明書の交付請求権者)
・本人(遺言者)の死亡前遺言者のみが可能
・本人(遺言者)の死亡後誰でも可能

なお、遺言書保管事実証明書によって明らかとなるのは、交付請求時に遺言者として特定された者について、自己(請求権者)が相続人・受遺者・遺言執行者等(これを関係相続人等といいます)に該当する遺言書(これを関係遺言書といいます)が遺言書保管所に保管されているかどうかという点に限られます。

仮に、遺言者として特定された者が遺言書保管所に遺言書を保管していない場合や、保管自体はされているものの請求者の関係遺言書ではない場合(請求者が関係相続人等に当たらない場合)には、遺言書が保管されていない旨の遺言書保管事実証明書が交付されることとされています。

親族・身内に相続が発生したら、関係遺言書の有無を確認するべく、まずは、遺言書保管事実証明書の交付請求を行ってみましょう。

遺言書の閲覧・遺言書情報証明書の交付請求について

本人の生存中には、本人のみが法務局に保管されている遺言書を閲覧できます。

一方で、相続人等は、遺言者が死亡した後に限り、遺言書の閲覧・遺言書情報証明書の交付請求ができます。

(遺言書の閲覧・遺言書情報証明書の交付請求)
・遺言者の死亡前
遺言者のみ遺言書の閲覧が可能
・遺言者の死亡後
相続人等遺言書の閲覧・遺言書情報証明書の交付請求が可能

相続人等とは、相続人、受遺者、遺言執行者その他法令で定める者をいいます。

なお、遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付がされた場合、法務局から、相続人等に対して、遺言書を保管している事実が通知されます。
相続人等は、この通知によって、遺言書が保管されている事実を知ることができます。

遺言書保管所における各種手数料について

保管の申請、閲覧請求、各種証明書の交付請求をするには、手数料が必要です。

各種手数料をまとめると、以下のとおりになります。

  • 保管の申請:申請1件(遺言書1通)につき、3900円
  • 閲覧請求(モニター閲覧):1回につき、1400円
  • 閲覧請求(原本閲覧):1回につき、1700円
  • 遺言書情報証明書の交付請求:1通につき、1400円
  • 遺言書保管事実証明書の交付請求:1通につき、800円
  • 申請書等・撤回書等の閲覧の請求:申請書等1件又は撤回書等1件につき、1700円

※参照:自筆証書遺言保管制度/09手数料(法務省HP)

終わりに

法律上、自筆証書遺言は、自筆能力さえ備わっていれば、他人が関与や費用の負担なしに、いつどこでも作成することができます。

一方で、従来の自筆証書遺言は、遺言者の死亡後に、遺言書の真実性や遺言内容の解釈をめぐって関係当事者間で紛争に発展するリスクがあります。

また、遺言書の保管状況によっては、相続人等が遺言書の存在に気づかないまま遺産分割協議が行われてしまい、遺言者の意思が実現されないこともあり得ます。

自筆証書遺言の保管制度は、法務局に出頭する手間や手数料が必要となるものの、自筆証書遺言の利点を損なわないまま、より確実に遺言者の意思が実現されるものであるところに最大のメリットがあります。