はじめに(株券発行会社の定めについて)
株式会社は、定款に定めることにより、株券を発行する旨の定めを設けることができます。
(上記定款の定めを設けるには、株主総会の特別決議が必要となります。)
株券を発行する旨の定めの定款の定めを置く会社を、会社法上、株券発行会社といいます。
なお、種類株式発行会社においては、種類株式の一部についてのみ株券を発行する又は発行しないと定めることはできません(会社法第117条第7項・第214条)。
株券の発行が原則であった旧商法時代とは異なり、現行の制度(会社法)上は、株券の不発行が原則です。
株券の発行義務について
株式を発行した場合
株券発行会社においては、株式を発行した後遅滞なく、株券を発行する必要があります。
これに違反した場合は、100万円以下の過料の対象となります(会社法第976条第14号)。
ただし、例外的に、以下の場合には、株券を発行しなくても差し支えないとされています。
(この場合には、過料の対象にはなりません。)
- すべての種類の株式につき譲渡制限規定がある会社(非公開会社)で、株主から株券発行の請求がない場合(会社法第215条第4項)
- 株券不所持の申出がある場合(会社法第217条)
- 単元未満株式に係る株券を発行しない旨の定款規定がある場合(会社法第189条第3項)
なお、上記1~3の場合であっても、会社法上は、株券発行会社として取り扱われます。
株式の併合の場合
次に、株式の併合がされた場合には、株式の併合の効力が生じた日以後遅滞なく、併合した株式に係る株券を発行する必要があります(会社法第215条第2項)。
株式の分割の場合
また、株式の分割がされた場合には、株式の分割の効力が生じた日以後遅滞なく、分割した株式に係る株券を発行する必要があります(会社法第215条第3項)。
ただし、分割の前からすでに発行されている株券については再度発行不要です。
株券の記載事項について
前述のとおり、株券発行会社では、一定の場合を除き、株券を発行する必要があります。
株券には、次の事項が記載し、代表取締役等が株券に署名又は記名押印する必要があります(会社法第216条)。
- 株券発行会社の商号(会社名)
- 当該株券に係る株式の数
- 当該株券に係る株式が譲渡制限株式である場合には、その旨
- 種類株式発行会社にあたっては、当該株券に係る株式の種類及び数
- 株券の番号
上記の要件を満たせば足りるので、株券を自社で作成することも可能です。
実務上は、印刷会社等へ依頼して株券を作成する例もあります。
登記義務について
株券発行会社は、株券発行会社の定めを登記しなければなりません。
なお、実際に株券を発行する必要のないケースであっても、登記申請は必要となります。
一方で、株券を発行する旨の定めを置かない会社(株券不発行会社)には、特に登記義務はありません。
株券発行会社の定めの廃止について
株式会社が株券発行会社の定めを廃止する場合の手続きについて触れます。
定款変更手続き
まず、株券発行会社の定めを廃止する定款変更が必要になります。
(上記定款の定めを廃止するには、株主総会の特別決議が必要となります。)
株券廃止公告
次に、株券廃止公告の手続きが必要になります。
定款変更の効力発生日の2週間前までに、株主及び登録株式質権者に対し、株券廃止に関する公告及び各別の(個別の)通知を行います。
株券廃止に際して公告・通知をすべき事項は、次のとおりです。
- その株式(種類株式発行会社にあっては、全部の種類株式)に係る株券を発行する旨の定款の定めを廃止する旨
- 定款変更が効力を生ずる旨
- 効力発生日において当該株式会社の株券は無効となる旨
ただし、株式の全部について株券を発行していない場合には、公告・通知の一方のみで足ります。
定款変更と株券廃止公告の先後関係
なお、株券廃止公告の手続きを株主総会の日に先立ち行うことも可能です。
そのため、他に必要な手続きを先に済ませ、株主総会の決議により直ちに株券廃止の効力を生じさせることも可能となります。
登記の必要書類
株券発行会社の定めの設定の場合
- 株主総会議事録(株券発行会社に関する定款の定めを設ける決議がされたもの)
- 株主リスト(上記株主総会時点の株主に関するもの)
- (司法書士等に委任する場合には)委任状
株券発行会社の定めの廃止の場合(現実に株券を発行している場合)
- 株主総会議事録(株券発行会社に関する定款の定めを廃止する決議がされたもの)
- 株主リスト(上記株主総会時点の株主に関するもの)
- 株券廃止公告をしたことを証する書面(官報)
- (司法書士等に委任する場合には)委任状
株券発行会社の定めの廃止の場合(株式の全部について株券を発行していない場合)
- 株主総会議事録(株券発行会社に関する定款の定めを廃止する決議がされたもの)
- 株主リスト(上記株主総会時点の株主に関するもの)
- 株式の全部について株券を発行していないことを証する書面(株主名簿)
- (司法書士等に委任する場合には)委任状
登記の登録免許税
株券発行会社の定めの設定・廃止の登録免許税は、申請1件につき3万円になります。
登記の申請期限(登記期間)
登記の申請期限(登記期間)をまとめると、以下のとおりです。
株券発行会社の定めの設定の場合
株券発行会社の定めを設けた日(定款変更の効力発生日)から2週間以内となります。
決議日より後の日を定款変更の効力発生日とした場合には、効力発生日から起算します。
株券発行会社の定めの廃止の場合
株券発行会社の定めを廃止した日(定款変更の効力発生日)から2週間以内となります。
決議日より後の日を定款変更の効力発生日とした場合には、効力発生日から起算します。
終わりに
株券不発行が原則となった現行の制度下においても、株券発行会社も一定数存在します。
株券発行会社においては株券提供公告が必要になる等、色々と管理コストが生じます(会社法第219条)。
そのため、事務効率化のために株券不発行会社へ移行するケースも少なくありません。
実際に株券を発行しているかどうかにもよりますが、株券不発行会社になるには、公告や通知が必要になる等、手続きに時間もかかります。
特に、公告(官報掲載)のために官報販売会社へ申込みが必要になる等、公告期間(2週間)以上に時間が必要になってしまいます。
株券の廃止(株券不発行への移行)にあたっては、スケジュールに余裕をもって進めるようにしましょう。